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ずっとコーヒーが好きだった

授業の合間に時間があるとお気に入りの文庫本を持ち込んで、いわゆる「喫茶店」 に入り浸るのが好きだった。皆とワイワイするのも悪くないが実は孤独好きなんだ、という主張は誰にでもない自己満足。

苦くて重いコーヒーが好きだった。

 

通勤ラッシュから開放されるとほぼ毎日、職場に入る前に「スタンドカフェ」でモ ーニングコーヒーを流し込んだ。贅沢している罪悪感と仕事モードへの切り替えス イッチの必然性の両方を感じながら、やめれない寄り道の15分。めまぐるしい時間の流れに埋没しないために鼻と舌で自分を奮い立たせた。


スッキリとキレのよい味が好きになった。

 

子育て中の楽しみは自宅で淹れる至福の一杯。ご褒美と癒しをその甘い味わいと豊かな薫りに感じて。アロマじゃない?コーヒーって。

 

ずっとコーヒーが好きだった。

最近コーヒーは体に良い飲み物だと言われてる。 ほら、ね。やっぱりね。
豆に、焼き方に、挽き方に、淹れ方に、拘るほどに楽しみが増す。

 

「私の1番」のコーヒーを探すようになって、山に道具を背負って登るようにな った。自分で焼いた豆を自分の好みの細かさに挽いて、決して山用のパーコレータ ーではなく、私はポットと紙のフィルターとドリッパーをリュックに詰めていく。 部屋で淹れるように丁寧に丁寧に、細く、ゆっくりと、滴を落とす。山頂に漂うコ

ーヒーの薫りに山友の表情がほっと和むのを見るのがたまらない。

「美味しかった」「ご馳走さま」 この一言が私を幸せにする。


次はどの豆を持って行こう。

いつの間にか「飲むこと」から「飲んでもらうこと」が好きになっていた。

日常のいたるところでコーヒーは、その人の気持ちを楽にさせたり、励ましたり、 してくれているわけですね。

毎度のことだから、案外私たちはそれを忘れています。

藤原智美 ( 第 107 回芥川賞受賞作家)

フクオカコーヒーフェスティバル実行委員会

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