子どもがまだ小さい頃、最寄りの小児科に行く途中にそのカフェはいつのまにか出来ていた。
私は珈琲が好きではない。香りは好きだけど、飲むと眠れなくなるからだ。
「いつ出来たのかな?」通りからちょっと覗いてみたら、可愛い雑貨も置いてある。 小児科で受付をすると、待ち時間がかなりある。「あ、そうだ!あのカフェに行って雑貨でも見て時間潰そう」
小児科からは歩いて 3 分もかからない。しかし、風邪を引いてる子供を連れての来 店、お店からしたら迷惑な客だろう。大丈夫かな?。。「いらっしゃいませ。」その声 はとても優しかった。「小児科の待ち時間が長くて。」言い訳をする私に「全然よかですよ〜雑貨もあるし見て行って下さい」
珈琲豆の香りがする店内、香ばしい様な、丸い様な、甘い様な。
雑貨を見るつもりで入ったけど、「飲んでみようかな」となぜかそう思った。豆が何 種類も置いてある。『桜』が名前に使われている豆を選んだ。名前から連想される情景が好きで。カップから立ち上る香り。口に含んだ時の鼻に抜ける香り。「美味しい」一度で好きになった。夜、寝れるかなと心配したが、ぐっすり眠れた。
それから、小児科に行く度にそのカフェに寄る様になり、珈琲豆も購入する様にな った。そして、小児科に行く用事が無い時も行く様になり、家でもミルで豆を挽いて珈琲を淹れる様になった。
今では珈琲無しの朝は考えられない。
いつも、優しく迎え入れてくれた店主は、今は違うお仕事されている。たまに会う 機会があり、懐かしい話で盛り上がることもある。今度、珈琲豆を卸してもらっていたお店に連れて行ってくれるそうだ。
あの時の、あの豆。変わらずにそこにはあるそうだ。
珈琲が好きではなかった私、あの出会いで、実はとても救われたのだ。子育てに追 われていたあの頃、ほっとする時間を作り出してくれたあの香りと味に、また出会えるのを楽しみにしている。