私と珈琲の本格的な出会いは、二十一歳になったばかりの頃だった。
日曜日の休日。
予定も無く西新の街をブラブラと散策していた時、今は亡きプラリバにある業務用駐車場の脇に、そのお店を見つけた。
ハニー珈琲西新店。
八畳もないバラス張りのようでプレハブのような印象を与える小さなお店。
その入り口に、「珈琲百円」の看板を見つける。
その安さに釣られてしまった私は、お洒落な雑貨店の雰囲気を醸し出す店内に私は足を踏み入れた。
入って直ぐ目の前に鎮座するレジで百円の珈琲を注文する。
無精髭を生やした長身の男性店長から手渡されたのは、耐熱加工が施された真っ白な紙コップ。
会計の隣に置かれている黒いポットから、セルフサービスで珈琲を飲むシステムのようだ。
白いコップに珈琲を注ぐ。
濃い琥珀色の液体がコップの中を満たすと、白い器の中で赤茶色に輝くのが見られた。
そこに砂糖とミルクを注ごうとして、ポットの隣に置かれていた黄緑色のポップが『ミルクと砂糖はありません』とこっそり主張していた。
今までの人生においてブラック珈琲を飲み干した経験が無く不安に駆られるが、店の規則であれば仕方ないと諦めその一杯を口に運ぶ。
柑橘系の強烈な酸味が、口の中で暴れ回った。
合奏団が口の中に整列して大合奏を奏でるような衝撃に襲われる。
驚いた拍子にその液体を飲み込むと、演奏を終えたように口の中は跡形も無く酸味が消え失せていた。
今まで経験したことがない珈琲に驚いた私は、小学生が燥ぎ回るかのように店長を称賛し、気が付けばコップの中身は空になっていた。
人生で初めてブラック珈琲を完飲した瞬間であり、私が月に何万も珈琲に注ぎ込むことになった主因である。
その後、多くの珈琲や人に触れる機会をいただき、果ては珈琲についての記事の仕事までいただくことになった。
あの出会いが無ければこの作文を出すことも無かっただろう。
ハニー珈琲には、心から感謝している。
ありがとう。
たきなが けいすけ