コーヒーを好きになって24年。
私がコーヒーを好きになったのは、小学生の時。
両親は共働きで忙しく、両親より兄妹と過ごす時間が多かった子供の頃。
特に母は誰よりも忙しく、朝から夕方まで働き、毎日19時頃に帰ってきては休む暇もないまま家事に追われていた。
家事に追われている母に話しかけても生返事の言葉しか返って来ず、ふてくされてしまう自分もいたが、子供と話す余裕もないほど残った家事を懸命にこなしていた。
そんな母は家事を終えた後、一杯のコーヒーを飲みながら新聞を読む時間が好きだった。
唯一、母が一息つける時間。
そんな母の傍にいくと、母は私に「コーヒー飲む?」と声をかけてくれた。
「うん!」と頷く私に母は牛乳と砂糖が入ったコーヒーを淹れてくれた。
そのコーヒーがとても美味しくて且つコーヒーを飲みながら過ごす母との時間も嬉しくて、その日から私はコーヒーが好きになった。
それから母がコーヒーで一息ついている姿を見かけては母の傍に寄り、母が淹れてくれるコーヒーを一緒に飲む時間がとても楽しみだった。
私以外の兄妹はコーヒーを飲まなかったから、母を独り占めした気分で尚更嬉しかった。
母と沢山会話をするわけでもないが、母と同じコーヒーを飲み、母の傍で一緒に飲めるこの時間が本当に幸せだった。
大人になり舌が肥えた私は、あの時飲んだコーヒーにあの時ほどの感動は無くなったが、今思えば、母が私の為に淹れてくれたコーヒーを母と二人きりで飲む時間が何よりもコーヒーをより一層美味しくさせたのだと思う。
母にこの話をする事は気恥ずかしいが、私が今でもコーヒーが好きなのは母のおかげである。
森下 まりこ