essayessay2017fcf-essay-img-01

オレンジジュース

通勤で毎朝立ち寄るカフェでなぜかオレンジジュースを飲むようになった私。

コーヒーの匂いを嗅ぐとどうしようもなく飲みたくなる。

でも我慢する。

それは見てしまったから。

そこのカフェは光サイフォンで淹れてくれる。

もちろん時間がかかるのは承知である。

オペレーション的に回しおおせないのかもしれないがコーヒーを淹れるとき、そこのスタッフがとても辛そうな顔をしてたてている。

はにかみ屋さんの多そうなスタッフは毎朝そこでオレンジジュースとパンをいただくのに毎朝聞いてくる「こちらでお召し上がりでしょうか」もはや疑問形ではない。

だって毎朝そこでいただくのだから。

1 年以上通っているのに嫌われているのかな、と思って毎日ルーティーンのようにオレンジジュースを飲む。

 

ある日、貧血気味でトレーから満タンのオレンジジュースを落っことしてしまった。

すると一番のはにかみ屋さんのスタッフが飛んできてくれた。

そして笑顔で対応してくれた。

それはイキイキと。

「大丈夫ですよ。」

朝はパンを買われるお客様がいらして気を抜くと(スタッフが気を抜いているのではなくこちらの問題)さっと買わないと行列に並ぶことになる。

そんな時間帯なので、恐縮して困ってしまったけれど、はにかみ屋の彼女はざっくり片づけて「いったん失礼します」とまたカウンターに戻っていった。

私には新しいオレンジジュースを一番に渡してくれた。

こういうと気がひけるけど、お役に立てたという喜びで溢れていた。

益々珈琲が飲みたくなる。

珈琲は上の空で淹れるものではない、という勝手な私の信条なので、あれをして、これをして、と頭をフル回転している彼女達にコーヒーを頼む勇気などない。

最も、名店の光サイフォンの珈琲をいただくと味の差は歴然でそれも萎える理由なのだけれど…。

 

結局この日もおとなしくオレンジジュースを飲んで迷惑をかけた彼女に「ありがとう」と声をかけて店を出た。

そういうワケで、今のところ一杯の珈琲は私にとって至福の贅沢。

朝は飲まない。

切ない話だ。

朝は飲まずに匂いを嗅ぐ。

せめて匂いに包まれたいけれどここのコーヒーを頼む人が少ないようだ。

朝から美味しい珈琲を飲ませてもらえると有難いんだけどな。

でも毎朝一生懸命働いている彼女達には言いにくい。

結局、美味しい珈琲はよそで飲む。

お預け状態になればなる程、美味しくて死んでしまいそうだ。

自虐的な私は毎朝オレンジジュースを飲んでいる。

 

マツコ

フクオカコーヒーフェスティバル実行委員会

Instagram

2018 © Fukuoka Coffee Festival. All Rights Reserved.