私の黄色いカフェ

その小さなカフェはログハウス風というより、トムソーヤの小屋的な印象を受ける。

その小さなカフェにはボーダーを着た美しい女主人がいる。

その小さなカフェの前に佇めば、たちまち遠賀川がミシシッピー川に見えてしまう。

その小さなカフェは、立ち寄った人以外は川の側に立つ 黄色い小屋にしか見えないかもしれない。

その扉を開けたら…世界がかわる。

 

その扉を押しながら可愛い鈴の音がチリチリと鳴ると「お帰りなさい」と女主人の声。

「いらっしゃいませ」でも「いらっしゃい」でもない「お帰りなさい」だ。

気恥ずかしそうに「ただいま」と言ってしまう私はまだ新参者だ。

 

カフェの中はありとあらゆるオウムがいる。

木彫りだったり陶器だったり。

静かな音楽がかかっている。

トトロの音楽がかかっていると常連さんの中に トトロがいるような気がする。

代わるがわる立ち寄る常連さんは少しばかり訳アリかもしれない。

皆とても優しい。

まるで冒険に飛び立つ勇者の休憩所のようだ。

皆歳をとって独りになったとき、このカフェはシェアハウスのダイニングになるそうだ。

皆、思い思いに集まって来れる、そんな場所になって欲しいと常連さんから言われたそうだ。

一杯ずつ手で淹れてくれるコーヒーの香りとともにそんな話をぽつぽつとしてくださる。

だから入る時は「お帰りなさい」とカフェを出る時は「いってらっしゃい」なんだ。

コーヒーも日によって違うけれど、とても優しくまろやかな味がする。

お水を汲みに秘密の場所まで通っているそうだ。

コーヒー豆も知る人ぞ知るお店まで買いに行かれているそう。

たくさんは買わなくて、その仕入れ先のご主人と話をしてコーヒーを淹れてもらって静かに豆のことを考えていると。

シェアハウスの住人達の為にブレンドしているそのコーヒーは泣きたくなるほど優しい味だ。

それぞれが、ふっと息抜きしてまた旅立っていく。

優しい女主人の甘い声で「いってらっしゃい」と言ってもらえて背中にじんわり羽が現れるよう。

今まで折りたたんでいたのか。

そんな風にみえる私も折れて疲れて扉をそーっと押しにやってくる。

その香しいコーヒーだけでなく、静かな優しいカフェの空気に癒されてまた頑張ろうと思う。

 

この黄色の小さなカフェは私がお休みのときだけ入けるとびきりの場所になった。

今となっては「お帰りなさい」を聞きたいのか「いってらっしゃい」を聞きたいのかわからないし、そんなことはもうどうでもいいのだけれど居心地のいいカフェを持っている私は大人だなと自慢に思える。

冒険の途中に立ち寄れる静かな時間と優しいコーヒーが今の私の幸せである。

 

マツコ

フクオカコーヒーフェスティバル実行委員会

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