ある日突然のことだった

ある日突然のことだった。

可愛がってくださっていた上司が突然亡くなった。

健康な方だっただけにあまりにも突然だった。

私にはその方との思い出の一つに一度だけ連れて行ってもらった喫茶店がある。

 

数年前、私が働く会社の会長が亡くなり、魂を極楽浄土へお送りするため、精霊船を流すことになった。

当日社員みんなが集まり、準備を進めていた。

ひと段落したところで、少し離れたところに手招きをしている上司がいるのに気付いた。

同期の女の子と一緒に行ってみると、「すぐそこに喫茶店のあるけん行こうで。」と言われ、行くことにした。

 

上司が言っていた喫茶店は本当にすぐそばにあった。

そこは昔からある古いお店で、店名は聞いたことがあった。

しかし、外見は古く、中も薄暗く外から見えづらかったことなどもあり、入ったことはなかった。

 

上司・同期・私の三人で中に入るとマスターがカウンター越しにサイフォンでコーヒーを淹れていた。

その光景はとても新鮮だった。

私が見慣れているのは、お洒落で今どきのスタイリッシュなエスプレッソマシンばかりだったからだ。

私たちが席に着くと、すぐにスタッフさんがメニューを持ってきてくれた。

私たちには何しろ精霊流しが始まるまでのほんの十数分の時間しかなかったため、サイフォンで入れるコーヒーや美味しいと聞いたことのあるサンドウィッチを注文することはできなかった。

八月のお盆の時期で暑かったため、昔ながらのガラスの器に乗ったバニラアイスを注文した。

運ばれてきたそのアイスにはウエハースまで乗っていた!まさに昭和レトロ。

ほんの短い時間で他愛もない話をして、冷たいアイスを食べて、急いで元の場所に戻った。
たった一度、ほんの一瞬の出来事だった。

それでもあの喫茶店の近くを通ると、今でも亡くなった上司との思い出が蘇ってくる。
あの喫茶店にはあれから一度も行っていないが、これから先もこの思い出を忘れることはないと思う。

 

長崎っこ

フクオカコーヒーフェスティバル実行委員会

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