「軽食」という言葉が好きだ。
軽食そのものも大好きだ。
サンドイッチ、ホットケーキ、ミートソース、ナポリタン、ハンバーグ、オムライス、カレーライス……。
手「軽」な「食」事、というくらいだから、家でだって作れる簡単なメニュウなはずなのに、喫茶店で食べると、一等、美味しい。
もちろん、プロと素人の差もあるだろうが、喫茶店の居心地のよさが、そう感じさせているのだと思う。
喫茶店にいる間だけは、憂鬱な納期のことも、気心の合わない同僚や上司のことも、寂しい預金や年金や病気の不安も考えなくていい。
自分に不干渉な店員、自分に無関心な客、心躍るレトロな内装、とびきり美味しい紅茶やコーヒーに(カップが選べるところだと一層テンションが上がる)、軽食、パフェ、自家製ケーキ……。
お世辞にも洗練された感じはしない、けれど包容力抜群の別珍の椅子に凭れながらそれらを享受していると、日常の悩みが心から姿を消す。
懐かしい味とノホホンとした空気が、色々あるけど、また明日から頑張るか、という気持ちにさせてくれる。
過ごし方を強制されないのも、喫茶店の大きな魅力の一つだ。
一人で来た時は、好きな作家の本をじっくり読むのもいいし、営業中のサラリーマンや慣れないスーツに身を包んだ就活生、何か打ち合わせをしている感じの業界人っぽい人たちをさりげなく観察するのもいい。
店員のおばちゃんと、常連のおばちゃんの世間話をこっそり聞くのもいい。
二人以上で来た時は、どうしようもなくしょうもない話で馬鹿笑いして、元気を取り戻す。
だから私は―もしくは、私と私の親しい人は―、今日もヘトヘトになるまで歩く。
むやみに、無意味に、街をブラブラする。
喫茶店という生き物を五感全部で満喫するために。
誘惑が並んだ、手作り感満載のメニュウを見て悩みに悩むために。
悩んだ先には、そこでしか味わえない、幸せなひと時が両手を広げて待っているから。
鎌田 りな