九州の缶コーヒーの消費量は他の地域よりも多いと聞いたことがある。
私の住んでいる福岡は特に多いのだとか。
20代の頃、建材メーカーの営業を担当していた。
顧客は建設関係の会社が中心で所謂「ドカタ」(土建)と 言われる業種だった。
福岡は現場仕事に従事している人が多く、 それが缶コーヒーの消費が高い要因の一つであるのだという。
現場で打ち合わせや営業で顔を出すとき、そこには必ず缶コーヒーがそばにあった。
厳しい職人は、眉間の皺と鋭い眼光。
私の姿を見て、自販機前に移動。
缶コーヒー無言で手渡された。
それは、甘くベタベタして、 私にとって苦手な味であった。
職人はタバコとそれを交互に口にし、大きなため息をひとつ。
そのまま表情がほころび、打ち合わせがはじまった。
それから、10年が経過。
私は転職を繰り返し今は放送の仕事に従事している。
プロデューサーやタレントとの打ち合わせのときは 必ずコーヒーがそばにある。
原稿を書いている時や編集をしているときも。
今も仕事のそばには必ずコーヒーがある。
業務を円滑にさせる、仕事モードのスイッチを入れる、休憩を感じさせる、、、。
今も仕事のあらゆる場面ではコーヒーの存在はなくてはならないものになっている。
福岡は空前のカフェブーム。
昔に比べ、本格的なコーヒーをあらゆる場所で味わうことができる。
いま、お気に入りのとあるコーヒースタンド。
コーヒーに集う常連客は多種多様。
浪人生、芸術家、文芸少年、主婦、 サラリーマン、飲食経営者、医者、消防士、、、。
コーヒーの湯気を挟み、様々な会話が飛び交っている。
洗練されたコーヒーがそこにアクセントとなり 最高の居心地の良さを感じてしまう。
職種は変われども、飲むコーヒーが変われども、コーヒーは すべてのシーンのそばにある。
それは、仕事だけではない。
朝目覚めたとき、コンビニで、食事の後、テレビを観ながら、電車を待っている時、、、。
頑張ろうとする時、悩んでいる時、ホッとしている時、、、。
生活のあらゆる場にはいつもコーヒーの香りと苦味がある。
10年前、建設現場で飲んでいた缶コーヒー。
いま、コーヒースタンドで飲むそれとは味も値段も大きく違う。
しかし、コーヒーを通じてコミュニケーションが 円滑にできていることは同じである。
私はこれからも人生で挫折や悲しみ、そして喜びなどを経験していくだろう。
その傍らではコーヒーがあり、その味や香りはその時の思いを忘れないように心に刻んでくれる。
コーヒーとともに歩む人生は苦味もあればエグミもある。
新しいコーヒーを探すように、人生をこれからも楽しみたい。
岡野 司