「ちかちゃんの淹れたコーヒーが世界一美味しい」 母から言われて嬉しかった言葉。
私はその言葉が聞きたくて、小学生からコーヒー を淹れた。昔なので、お湯で溶かすだけのインスタントコーヒー。
それでも母は
「粉の入れ方が絶妙で、ちかちゃんの淹れたコーヒーが一番!」 と、言ってくれた。
毎日、仕事帰りの母を待って、コーヒーを淹れた。
母はブラックコーヒーが好みで、 でも、一緒にとても甘い羊羹を食べる。
その姿をみて、私も役に立ってるようで、誇らしい気持ちになった。毎日、キッチ ンから、コーヒーの香りがしていた。
母につられて、小学 3 年生からコーヒーを飲んだ。 最初は砂糖とミルクたっぷりのジュースのようなコーヒー。中学生になると、母と 一緒にブラックを飲んだ。
とても幸せな時間だった。
高校 1 年生の時母と一緒、にコーヒーを飲めなくなった。
母は 42 で天国へ行った。 いまでも、母と飲んだコーヒーを思い出す。 大人になって、ペーパードリップコーヒーを知った。
母に淹れてあげたら、何と言ってくれるだろう。
いま、47 の私は高校生の息子にコーヒーを淹れている。 コーヒーを飲みながらバカ話して、笑う。
私の幸せは
コーヒーの香り
だと思う。
若狭千景